2005-09

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第3話 『悔しいぐらいに…』

 一方的な試合だった。
 ほとんどが初心者で何回か練習しただけのチームと、市の社会人1部リーグで活動するチームとじゃレベルが違いすぎる。ずっと攻められっぱなし…スイーパーの子が経験者でけっこう上手かったからなんとかしのいではいたけど、それでも前半だけで3失点。
 ハーフタイムにはもうグッタリだった。
 「かなりキツいっすね…」前半ずっと守備に追われていたワッタは俺以上に疲れた顔で、ペットボトルのスポーツドリンクをガブ飲みしている。左サイドのMFに入ったワッタはFWの俺の3倍ぐらい走ったに違いない。
 「キツイし暑いしボール来ないし…」頷いてそう言った。クリアボールをなんとか追いかけていただけで、まともにボールを触った記憶が無い。
 他のチームメイトも各々に疲れた顔で座り込んでいた。初めての試合じゃ仕方ない。どこをどうすればなんて話し合う余裕もなかった。
 後半開始、疲れた体を引きずってグランドへ。相手チームは余裕の顔。笑いながらDFがFWに入ったりしてポジションを入れ替えてる。
 「なんかナメられてますね」それを見たワッタは分かり易いぐらい悔しそうな顔をした。
 「ってか完全にナメられてるよな」俺も多分同じ顔をしていた。
 アドレナリンってのが流れ出したんだろう。さっきまでの疲れはどっかに行っていた。
 周りに気を使っていたワッタのプレーがいきなり変わった。相手を小馬鹿にするようなドリブルで攻め上がる。3人ぐらいに囲まれてもボールをキープ、体を当てられて倒されるまで何人抜いただろう。
 「ファールだろ!!」普段は余裕の顔のワッタが声を荒げて叫んでる。ソレを見てなんだか嬉しくなった。
 チャンスらしいチャンスは一度だけ。中盤でボールキープしたワッタが3人を置き去りにしてスルーパス、左サイドを抜け出した俺が折り返して、中央で待つリョウスケへ…
 結局トータルで0対5。リョウスケのシュートは当りそこなってコロコロとGKの目の前へ。
 完全にナメられたうえに完敗だった。


 
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第4話 『真夜中の公園から』

 バイト帰り、仲の良いメンバー4人が揃ってラストまでだったので、そのままファミレスでご飯を食べていくことにした。和風ハンバーグセットを食べながら、こないだの試合のことばっか考えてた。
 助っ人だったワッタと俺が一番悔しそうな顔をしてたかもしれない。自分自身最低のデキだったのも悔しかったし、ナメられた事にも腹が立った。ただ、本気で悔しがってるワッタを見て、俺は少し嬉しかった。
 「どうでしたこないだのサッカー?」アッチはそう言って俺の顔を窺った。見てすぐに良くなかったってのを察したらしい、シマッタって顔をした。
 「ボロ負けだよ」そう言って俺はアッチの方を軽く睨んでから笑った。
 「いいな、タケだけ面白そうで」ホントに羨ましいって感じでよっPはそう言ってから、「俺もなんかスポーツやりたいよ」って付け足した。
 「アレじゃないですか、僕らでサッカーチーム作りましょうよ」
 ノリで言っただろうアッチの言葉だったんだけど、俺は本気で悪くないなって思った。
 「良いじゃんソレ!俺やりたいよマジで!」よっPの反応も早かった。たぶん同じ事を考えていたんだろう。
 「面白そうっすね」マサはみんなの反応を見てから賛成の意思表示。いつものパターン。
 それから一時間ぐらいかな、ずっとサッカーの話ばっかしてた。どこのポジションがしたいだとか、ユニホームはどこのがイイだとか、日本代表のどこがダメだとか、CLのことだとか…
 「ってかなんか今すぐサッカーしたくなってきた」誰もがきっと思っていたことをよっPが口に出して、みんなで顔を見合わせた。
 家の近所の公園で、真夜中、街灯なんて一個だけ。上半身は汗だくになったから裸になって、僕らは車に積んであったボールを持ち出してサッカーをした。まるで子供。
 「目標は国立だな」
 「いやいや、サンシーロだろ?」
 「カンプ・ノウじゃない!」
 「ってかまず花咲じゃない?」花咲ってのは市内で一番キレイな球戯場で、色んな大会の決勝とかの会場で使うところ。
 「楽しければ何処でもいいや」
 くだらないことを言って騒ぎながらボールを蹴って、疲れたら自販で買ったジュースを飲みながらまたバカ話。
 クソ暑い夏が始まった。


  


 

第5話 『始動』

 次の日、遅番で出勤だったから昼過ぎに店へ。馬鹿みたいにはしゃいだせいでグッタリと疲れていた。いつものようにサッカーコーナーに行くと、青い買物カゴが3つ、スパイクやらソックスやらジャージなんかが詰め込まれてた。
 「おはようございます!」俺を発見して、マサがテニスコーナーから駆け寄ってきた。
 「このカゴって?もしかして…」
 「あっ、俺とよっPとアッちゃんの取り置きです」そう言ってマサはニヤッと笑った。
 みんな早番だったから、朝から着たり履いたりして選んでいたらしい。マサのカゴにはPUMAのGKグローブが入っていた。顔がデコボコだからGKっぽいって言われて、本人意外とその気になったみたいだ。
 「マジか!?」ホント嬉しかった。みんなけっこう本気なのが最高に。
 「あっ、あとなんか、今度新しく入ってくるバイトの子、サッカーやってたらしいですよ」
 「マジ?加入決定じゃん」
 「ユミの後輩らしいんで、多分やるんじゃないですかね」
 レジのユミちゃんは高校の時サッカー部のマネージャーだったから、その時の後輩かなんかだろう。けっこう期待できる。
 「俺の弟もやりたいって言ってました」
 「マサの弟って…バイト入ったんだっけ?」
 「今日の夕方から来るみたいっすね」
 「マサに似てるの?」そう言って俺は妙にデコボコしたマサの顔を見て笑った。顔だけで笑いが取れるなんて卑怯だ。
 夕方になる頃には、カゴは4つに増えていた。それが閉店頃には5つに。俺のカゴにはDIADORAのスパイク、中学の頃から履いているお気に入り。履くだけでファンタジスタな気分になれる靴。
 河川敷で公園で、真夜中の学校に忍び込んだり。とにかく俺たちは暇さえあればサッカーしてた。新品のスパイクを泥だらけにして。
 「サッカー面白いっす」バスケットマンだったマサの弟のケンも、すっかりサッカーにハマったみたいだ。こいつは意外と男前。マサと似てるのは骨格だけ。
 ただ集まってボールを蹴ってるだけだったけど、毎日が楽しくて仕様が無かった。サッカーコーナーのDVDは黄金のカルテットに変えてみた。
 そして…ウサギを背中に背負って、あいつが現れたんだ。


 

第6話 『青いウサギ』

 「チーム名決まったんですね。なんでウサギなんですか?」
 「ウサギ…??」ユミちゃんに聞かれて、俺は意味が分からず首をかしげた。他の奴らにも同じ事を聞かれたけど、全くなんのことやら。
 休憩室で制服に着替えながら、そういえばバイトの連絡ノートにチーム名募集って書いておいたのを思い出した。もしかしたら…
 『サッカーチームを作ったのでチーム名募集!!』そう書いたページの一番上に『BLUE RABBIT』と装飾された文字。誰が書いたのか分からないけど、みんなコレを見てチーム名が決定したと勘違いしたんだろう。
 店内に出てサッカーコーナーへ。いつものように入荷品のチェックをしているとよっPが嬉しそうな顔してやってきた。
 「おはよ、チーム名決まったんだね。なんでBLUE RABBITなの?」よっPからも同じ質問。俺がきたら早速聞こうと思って待っていたんだろう。
 「ってか俺じゃないんだよね、アレ書いたの」
 「マジで?もうみんな決定したと思ってるよ。俺も決まったんだと思ってたし」
 そして30分後、犯人は遅刻して現れた。
 「あ、アレ書いたの俺です」犯人はマサだった。
 新人がオリエンテーションをしてる時にちょうど休憩中で、暇だったから新人の男の子の背中にプリントされていた文字を模写して暇潰ししてたらしい。その文字ってのが『BLUE RABBIT』
 「とりあえず、すいません」マサはなんとなく謝った。
 「ってか、もう、コレでいこ、青ウサギで」
 「なんかちょっと変えてみよ、イタリア語とか良くない?」俺は言ってすぐ店内のPCでイタリア語翻訳を検索、青いウサギを訳してみることにした。

 噂の新人ケイタはその日の夕方から出勤してきた。
 「おはようございます!」そう言って屈託の無い笑顔。目が細くておとなしそうな子、好青年って感じ。サッカーコーナーに配属ってことだったので、とりあえず商品出しを一緒にやりながら話をしてみた。
 「すげぇ!」入荷したばかりのレプリカシャツを広げる度にケイタは喜んで声を上げた。お互いサッカー好きだからか、俺とケイタはすぐに仲良くなった。
 「今度俺らでサッカーチーム作ったんだけど、ケイタ一緒にやらないかい?」ノリでそう誘ってみると、ケイタは嬉しそうな、ホントに嬉しそうな顔をして答えた。
 「すげぇ、はい、是非やりたいです!!チーム名とかもう決まってるんですか?」
 「アッズッロ・レプロット」とっさにそう答えた。まだ決まってなかったんだけど、さっき調べて考えた中で一番良さそうな名前。
 「イタリア語ですか?すげぇ、カッコイイっすね」
 「うん、略してアズレプ」略してみるとなんかイイ感じだなって思った。
 みんなに聞いてみても『アズレプ』って名前は好評だった。語呂がいいし覚えやすい。青いウサギ、アッズッロ・レプッロット、アズレプ。
 チーム名が決まるとなんだかテンションが上がった。みんなのテンションもさらに上がったみたいだ。
 ボンゴレ・ビアンコとか、ロッソとか…イタリア語って色が後ろにくるような、文法とか間違ってるような…そんな気はしたけど、まぁ、なんだか響きがイイから気にしないことにした。
 とにかく、アズレプは歩き始めた。



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第7話 『オーナーの仕事』

 「だいぶ前に調整会議も終わってますし、今は空いてる曜日も無いので申し訳ないのですが…」
 もう10件目ぐらいだろうか?どこの学校も同じような答え。学校のグランドを借りて練習しようと思ったのはいいけど、どうやら時期が悪かったみたいだ。放課後の開放事業で小学校や中学校のグランドを使わせてもらえるみたいなんだけど、そのための調整会議ってのは春に行われるらしい。夏も終わりかけてる頃じゃなかなか空きはみつからない。
 もっと練習したいっていうみんなの要望にどうしても答えたかったから、ここで諦めるわけにはいかなかった。電話帳を見て次の学校を探して電話をかける。その繰り返し。
 「土曜日なら今のところ空きがありますね…」
 「あぁ、やっぱりそうですか…え!?」空いてるって答えに一瞬意味が分からずそう答えてしまった。
 「本当ですか?是非お願いします!」内容を聞いてその日のうちに学校へ、担当の先生から書類をもらいに行った。
 東町小学校のグランドは狭かったけど、ナイター設備もあるし、併設する中学校のグランドも使って大丈夫とのことだったので、サッカーをするには十分な環境だ。
 まずは書類を書かなくてはならない。10人以上での使用が義務付けられていたんだけど、現在のメンバーは6人…でもグランドさえ借りれるなら人を集めるのは簡単だと思った。
 その日の夜、みんなにグランドが借りれそうってことをメールしてから、俺はワッタに電話をかけた。
 「土曜日だと行けるか分からないですけど、学校にも2人ぐらいサッカーやりたいって奴がいるんで誘ってみますね」ワッタは喜んでそう答えてくれた。
 マサの友達にもサッカー好きで初心者だけどやりたいって奴がいたから、これで人数的には問題なない。
 グランドも借りれそうだし、メンバーも集まってきたし、どんどん何かに向かって行ってる感じがして楽しかった。
 『色々めんどくさそうなこと頑張ってくれてありがとね、オーナー!』よっPからきたメールを見て、なんだかハッピーな気分。オーナーってのも悪くない。
 季節的には夏の終わり。けどこれからがホントの夏の始まり。



おかげさまでランキング調子良いです!ありがとうございます!
 
 

第8話 『ウサギの産声』

 練習は夜7時からだったんだけど、初めての練習だし、管理人の方に挨拶したり照明の使い方なんかを教えてもらわないとならなかったので、けっこう早めに家を出た。
 「じゃあ、怪我しないように頑張ってな!」管理人さんはスゴイ良い感じの人。言われて俺は、よろしくお願いしますと頭を下げた。
 まだ照明が点いていない薄暗いグランドに行くと、そこにはもうケイタの姿が…。お気に入りのレアル・マドリーのレプリカシャツ、もうすでにスパイクも履いてる。
 「おはようございます!」ホントに嬉しくて堪らないって笑顔。マジでこいつは愛すべきサッカー馬鹿だ。
 「おはようケイタ」そう答えてすぐに準備を始めた。
 ケイタと俺が簡単なアップをしていると、ぞくぞくとみんなが集まってきた。よっP、アッチにケン、そしてマサ…いつもの面々。それに加えてマサの友達も。
 「よろしくお願いします」
 マッチョはあだ名のわりに普通の体型、むしろやや痩せ気味。ちょっとトボケた感じの顔。
 「マッチョって言うからプロレスラーみたいな子が来るんだと思ってたよ」言われてマッチョは恥ずかしそうな顔で笑った。
 みんなそれぞれに着替え始めると、マッチョはユーべのレプリカ、アッチとよっPはミラン、マサはレアルの3rdと、全然バラバラなのが面白かった。俺は大好きなインテルのレプリカシャツだし。
 「なんか、サッカーするって感じだな」よっPは嬉しそうにそう言って、河川敷の土で汚れたディアドラのスパイクに履き替えた。
 「どうも~」7時5分前ぐらいにワッタが友達2人を連れて現れた。
 「アレ?ワッタ今日バイトじゃないの?」
 「なんとか今日だけ休みもらいました、次から来れるか微妙ですけど…」
 「マジか…」無理して来てくれたのがスゲェ嬉しかった。
 ワッタに連れられてきた2人、タクちゃんとアタルは全く正反対な雰囲気。色白でヒョロッとしたタクちゃんは無口でクールな感じ、逆にアタルは明るくて元気の良さそうな子だった。
 最初ってことでシュート練習をしたりミニゲームをしたり。河川敷での朝練でケイタの上手さに驚いたんだけど、それ以上にこの日、俺はタクちゃんの上手さに衝撃を受けた。
 「すげぇ…」ケイタもタクちゃんの一つ一つのプレーに感動してた。明らかにレベルが違う。
 ワッタの技術は相変わらずだし、アタルも経験者なだけあってかなり上手い。マッチョも初心者にしては悪くないし。なんだかこのチームはかなりやれるんじゃないかって気になった。
 けど、練習が終わってから気が付いたんだよね…サッカーやるには1人足りてないって。



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第9話 『紙の上のフィールド』

 夜のバーガーショップで3杯目のコーヒー。テーブルの上には書き殴られては丸められた紙の山とボールペン。アッチと2人でバイトが終わってからずっとサッカーの話で盛り上がってた。
 「最初は5バックにして失点抑えた方が絶対良いですよ」
 「5バックはやりすぎだろ、攻めないとサッカーじゃないって」
 チームのフォーメーションを考えてたんだけど、DF出身のアッチとFWの俺とでは全然意見が違う。何度も店員さんにもらったメモ用紙にシステムを書いては議論。けっこう2人とも熱くなってた。俺は取られても取り返す殴り合い的戦術が好きなんだけどね、アッチが好むのは失点を抑えてまずは引き分けでも良いから負けないサッカー。
 こないだお店で接客について仲良くなった男の子に、その子は草サッカーみたいな感じでチーム作ってやってるらしいんだけど、そのうち練習試合でもしようよって携帯教えたら速攻で電話がきて、じゃあ来週にでもお願いしますってことになった。だから慌ててフォーメーションなんかの話し合いってわけ。
 「ってかホントいきなりすぎますよ」アッチは同じセリフをもう十回ぐらい言ってる。
 「決まったものは仕方ないじゃん」俺は毎回同じ返答。
 サッカー経験者だし、一番背がデッカイから、俺はアッチをキャプテンに任命した。キャプテンってなんか大きいとイイじゃんね、俺はちっちゃいから。本人は嫌がってたけど、実際はまんざらでもないはず。言われたその日にキャプテンマーク選んでたし。
 「でも、とりあえず人数が足りてないですよね…」
 「ケイタが後輩連れてくるって言ってたけど、ワッタが来れないからな…グランド狭いし、10対10でやるしかないね」
 人数の問題はケイタが後輩を誘ってくれたおかげで解決しかけたんだけど、ワッタがバイトで来れないので、また振り出しに戻った。飲食店のバイトで土曜日に休みをもらうのは難しい。
 「相手のチームって強いんですか?」
 「なんか、部活でやってない高校生の集まりみたいな感じらしいよ」
 「意外と上手い奴とかいそうですよね」
 なんだかんだ議論しながらも、そうやって話してるのが楽しくてしょうがなかった。結局、フォーメーションは試合の日の気分で決めようってことになったんだけど。何のために長いこと話し合ったんだか…
 「やるからには絶対勝ちましょう!絶対強いですようちのチーム!」
 気持ちは一緒。絶対に負けたくない。根拠の無い自信みたいなモノもあったし、やるからにはやっぱりね、勝たないと。
 試合が決まったって聞いてみんなのテンションも上がりっぱなし。そしてついにアズレプは初めての試合に臨む。



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第10話 『怯えるウサギと震えるカメ』

 相手チームのナイキ製、オランダ代表もどきのオレンジ色したユニフォームに比べて、同じナイキ製だけど、俺たちの緑色のビブスはなんだか滑稽に思えた。結婚式にTシャツで挑む気分。
 初めての試合にみんなの表情は硬かった。よっPやケン、マサやマッチョなんかにとっては人生で初めてのサッカーの試合だから無理も無いんだけど。
 「たいしたことないですよ、絶対勝てますって」ケイタの連れてきた後輩、ユアサはそう言って怯えるウサギたちを勇気づけた。ついこないだまで現役だっただけに頼もしい。まだ高校2年生なんだけど、部活は監督と喧嘩して辞めたらしい。イタズラ好きの小学生みたいな奴。
 100均で買ってきたホワイトボードを使ってフォーメーションをみんなに説明する。最初はアッチの意見を尊重して守備的な布陣で臨むことにした。
 GKマサ。サイドバックは右にケン、左にマッチョ。センターバックはアタルとユアサ。ボランチはダブルボランチでアッチとケイタ。右のMFに俺、左にタクちゃん。ワントップがよっP。10人でやるので4-4-1のシステム。
 相手チームは審判を一人出してもまだ余るぐらいの人数。アズレプはギリギリ。買ってきたキャンプ用の簡易ベンチの上には荷物だけ。
 「そろそろ、やりましょう!」お互いに軽いアップを済ませて、ついにアズレプ初の練習試合が始まった。

 前半開始3分、多分みんな頭の中は真っ白。右、左に振られてからセンターへ、相手チームの14番のシュートは当りそこなってコロコロとGKマサの前へ。
 「オーケー」そう言ってマサは余裕でボールを掴んだかに見えた。だがボールはマサの股をぬけてそのままゴールまで…いきなりの失点。トンネル。
 「ウソだろ…」きっと誰もがそう思った。
 一方的な試合になった。上がりすぎてる両サイドバックの裏をガンガン狙われ、センターバックが引きずり出される。ボランチのアッチはDFラインに吸収されるぐらい下がり目で、元々サイドハーフのケイタは右に開きすぎ、ポッカリ空いた中盤を相手に完全に支配されてしまった。
 なんとかそれでもアタルとユアサが頑張っていたんだけど、前半10分、今度は完璧にサイドを崩されて失点。続く13分にも中央からのミドルシュートで追加点を取られた。
 そして前半21分、フワフワと飛んできたボールをキャッチしようとしたマサが、それを後ろに逸らしてしまい…4点目。
 こんなはずじゃなかった。攻撃もパスが上手くつながらずに形にならない。まだ一回しか揃って練習したことがないだけに連携もクソもない。
 30分ハーフの前半が終わって、スコアは0-4。座り込んだウサギたちは汗でずぶ濡れ。なかでもGKのマサが一番疲れた顔をしていた。誰もミスを責めることはしなかったんだけど。
 「兄ちゃん、なにカメみたいに縮こまってるの!?完全にカメじゃん!」弟のケンだけは遠慮なくマサのミスをからかった。多分、ケンに言われるのがマサには一番堪えるだろう。
 「このままじゃヤバイぞ、どうする?」俺の言葉にアッチはホワイトボードを取り出してポジションの修正。
 「攻めましょう!このままじゃヤラれるだけです」考え込むアッチにケイタがそう言った。確かにもう攻めるしかない。
 ボランチをアッチ一枚にして、ケイタを右サイドに、俺がトップに上がることにした。4-3-2、攻めの枚数を増やすしか方法はなかった。
 このままじゃ終われない。



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第11話 『後半』

 「サイドバック上がりすぎ!もっと下がって!」ファールギリギリのスライディングでボールを奪ったユアサが大声で叫んだ。それでもマッチョとケンは、どうしても相手につられてポジションを前にとってしまう。
 中盤でボールが落ち着かず、クリアしてはまたボールを拾われて攻められる。完全に悪循環だった。何度も相手にシュートを許すが、ケンの一言で死に物狂いになったマサが、不恰好ながらなんとか、お手玉したり後ろに逸らしたりしながらも防いでくれてるおかげで失点こそ免れているが、それでも追加点を許すのは時間の問題。
 「上がりすぎだって!下がれ!!」ユアサがまた叫んだ瞬間、相手センターハーフからマッチョの裏のスペースにパスが出された。完全に裏を取られた。だが、そのボールを全速力で戻ってきたタクちゃんが奪取した。
 「ナイスカバー!」今度はアタルが叫んだ。
 ボールをキープして前を向いたタクちゃんはそのまま左サイドをドリブルで駆け上がる。長い手足を活かした大き目のストライド、ワンフェイントで簡単に相手を置き去りにしていく。
 逆サイドでフリーのケイタが手を上げてボールを要求したが、タクちゃんは止まらない。個人技だけで左サイドを深くまでエグッてからセンタリングを上げた。
 絶妙のタイミングで上げられたボールは中央で待つよっPへ。苦手ながらなんとかヘディングで競り合うよっP。
 よっPの頭に当ったボールはゴールには向かわず横にこぼれた。丁度走りこんでいた俺の目の前。左45度、最も得意な位置。俺は迷わず右足を振りぬいた。
 無回転で放たれたボールは、GKの上を越えてから急激に落ちてゴールに吸い込まれた。昔から何度も練習してるシュートだった。
 「ナイスシュート!」駆け寄ってきたよっPが飛びついて喜んだ。
 「イケるイケる、あと3点取るぞ!」アッチが叫んだ。
 「あと4点です」アッチの言葉にケイタがボソッと返す。
 その1点でアズレプは息を吹き返した。必死で守っては取り返したボールをなんとかしてタクちゃんにあずける。タクちゃんは何度も左サイドを駆け上がってはチャンスを作る。そのプレーがみんなを勇気付けた。
 だが、その後また1点を奪われ、惜しい場面は何度かあったものの、加点できぬまま試合は終了した。
 1-5、完敗だった。



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第12話 『顔を上げて前を向く』

 泣きそうなぐらい悔しかった。
 試合終了後に相手チームのトコに行って、キャプテンのミヤタ君に挨拶。近いうちにまた試合をしましょうと再戦の約束をして握手を交わした。ファンタジスタは良いチームだった。試合中は激しいプレーで熱くなったりもしたけど、試合が終わればキチンと挨拶もしてくれたし、サッカーが好きな奴らの集まりって感じ。ホントにまたこのチームと試合したいなって心からそう思った。
 アズレプの面々はそれぞれに悔しそうな顔、何とも言えない重たい空気に包まれていた。初めての試合とはいえ、1-5の惨敗。
 「お疲れ…」何か言おうと思ったんだけど、それしか言えなかった。
 「もっと練習して、次は勝ちましょう…絶対」ケイタの言葉にみんな頷いた。
 初心者も経験者も関係なく、誰もが本気で悔しがってる。もっと上手くなりたい、もっと良いサッカーをしたいって、そんな顔をしてる。誰かのミスを責めるでもなく、自分自信がもっとってね。そんな姿を見て俺は確信した。
 このチームは強くなる。

 次の日のバイトは最悪だった。日曜日なだけにそれなりに店は混んでて忙しく、筋肉痛で体のいたるところが悲鳴を上げてた。子供の頃は日が暮れるまで遊びまわっても、次の日にはケロッとしてまた遊びまわってたってのに。
 暇をみつけてはみんながサッカーコーナーに現れ、昨日の試合の話やどうすれば強くなるかなんて事を話し合って、まるでミーティングルーム。ここは職場だってのに。
 「なにしていいか分かんなくてさ、ただ前の方でフラフラしてただけだったよ…」よっPは何も出来なかった自分の不甲斐なさをそう言って悔しがり、FWってどう動けばいいのかとか、家で暇なときにできる練習ってなんかないかとか、質問が浮かぶ度に何度もケイタや俺に聞きに来た。
 「まずはポジションを固定しましょう、あとはやっぱり基礎ですね」昨日の敗戦から、アッチはしっかりとポジションを決めて練習することを提案。確かに、まずは自分のポジションの動きに慣れることが必要だ。
 「みんな本気で悔しがってますよね、なんかイイですよね」そう言ってケイタは嬉しそうな顔をした。朝から1番悔しそうにしてるのはケイタだってのに。
 「昨日はホント悔しくて…あの後、兄ちゃんと夜中に家の前で練習してました」あきらかにケンは寝不足の顔。そういえばマサも朝からグッタリとした顔をしてた。
 疲れてたけど、なんだか嬉しくてワクワクしてた。これからのことを考えると最高の気分。お客さんにちょっと高めのスパイクを勧めながら、頭の中はサッカーのことでいっぱいだった。
 バルセロナのレプリカゲームシャツを見ていたお客さんに声をかけて話してるときに、フッと思ったんだよね。これから1番最初にまずやらなきゃいけないこと…ってかやりたいこと。
 ユニフォームを作ろう!!



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第13話 『ウサギの正装』

 アッズッロって名前を背負ったからには、ユニフォームの色はもう決まってる。真っ先に思いついたのはイタリア代表、アッズーリのユニフォーム。プーマのそれはバッジョが代表最後の試合で着た、俺にとって特別なモノ。インテルのユニフォームも捨てがたい。1番好きなチームだし、デザインもカッコイイ。
 「俺はコレがイイです」そう言ってケイタが手に取ったのはレアルの03-04シーズンAWAY、アディダスの紺色のユニフォーム。しっとりとした肌触りで着心地の良さそうなやつ。
 ケイタも俺もニヤニヤしながら選んでいたんだけど、ユニフォーム代に名前と番号のマーキング代、パンツとソックスも揃えると…けっこうな金額になる。フリーターで、ある程度収入のある連中はイイとして、学生には辛い額。もっと安いの探さないと…
 
 ソレを見つけたのはケイタだった。旧品の値下げで倉庫から商品を引っ張り出してるときに偶然発見して、走って売り場にいる俺のトコまで持ってきた。
 JOMAのユニフォームセット。シャツにパンツ、ソックスまでセットになって驚きのプライス。
 「ヤバいなそれ、あの頃のアルゼンチンっぽいじゃん」レプリカってわけじゃないんだけど、マラドーナの頃のアルゼンチンそっくりなデザイン。
 「すげぇ、カッコイイですよね」ケイタもかなり気に入っている様子だった。
 よっPにアッチ、ケンもマサもそれを見て一発で気に入った。サッカー好きにとってそれはまさに神の正装。それでいて値段も安いんだから文句ナシ。
 「マジでかっこいいですね!俺、似合うかな、ちょっと着てみていいですか?」ユニフォームを持ってフィッティングルームに入ろうとするマサにみんなの視線が集まった。
 「…ってかさ、マサは似合わなくても関係ないじゃん。キーパーなんだから」よっPに言われてマサは驚いた顔。ホントに気付いてなかったみたいだ。
 「いや、でも…あの…みんなと同じじゃダメ?」
 「うん、ダメ」
 けっきょく、マサはとりあえず一度それを着てみてからGK用のユニフォームを探し始めた。試着したものの、そのユニフォームが全く似合わなくてみんなに大笑いされ、半分イジケた顔で。
 アッズッロってのは確か濃い青色のことだったと思うんだけど、多少薄くて縦縞だっていいじゃないか。勝手な言い分で自分を納得させて、そのユニフォームを試着してみた。
 安いわりに着心地も悪くないし、なんだか着ただけで上手くなったような気分。順番にみんな試着してみて完全に決定した。こいつがウサギの正装だ。



★たくさんのコメント感謝しております。ホント嬉しいです★
☆CLも始まったので夜な夜な頑張って書いております☆

 
 

第14話 『ある雨の日』

 その日は朝から雨だった。
 せっかくの土曜日だってのに天気予報が大当たり。窓を叩くぐらい強く降ったり、ポチャンポチャンと柔らかく降ってみたり、とにかくずっと雨。止む気配は全くなかった。
 ちょっとぐらいの雨なら大丈夫だと思ったんだけど、さすがに朝からずっとの雨じゃ、グランドがぐちゃぐちゃになってて使えそうにない。せっかく何回かの練習でチームはイイ感じに馴染んできたのに。
 休憩中、ご飯を買いに近くのコンビニまで、朝よりはだいぶマシになってはいたけど、やっぱり雨。おにぎりとお茶を買って休憩室に戻ると、出るときはいなかったユミが休憩に入っていた。
 「おっ、ユミも休憩か」
 「はい、今入ったばっかりですよ」幸せそうにお弁当を食べながら、ユミは人懐っこい笑顔を見せた。ユミは高校を卒業したばかりの19歳。ポッチャリとした感じで、けっこう可愛らしい顔をしている。東京の大学に行った彼氏のトコに行くためにお金を貯めてるフリーター。
 「そう言えばさ、ケイタってユミの後輩だろ?あいつってなんで部活でサッカーやってないの?」ふと気になって聞いてみた。あれだけサッカー好きな奴が部活に入ってないなんて不思議な話だ。
 「ケイタは2年生から編入してきたんですよ、そのまえは室蘭の高校に行ってたみたいで…」
 「室蘭って…あの室蘭?」室蘭といえば北海道で1番有名なサッカーの名門校だ。
 「そうですよ、でも練習で怪我したらしくて、辞めて帰ってきたんですよ。編入してきてから部活にも一応入ったんですけど、怪我で練習とかもあんまりできなくて」
 「そっか…」話しを聞いてなんだか納得。確かに、怪我でもしない限りあいつがサッカーをやめるなんて有り得ない。ずっとサッカーができなかった分、今は楽しくてしょうがないんだろう。だからきっといつも笑ってるんだ。

 バイトが終わって家に帰る。雨はまだ降り止まない。
 いきなり予定がなくなったから、特にすることもなくテレビを点けてボーっとする。チャンピオンズリーグのダイジェストを眺めてて、気が付いたら7時になっていた。そういえば雨で使用しないときも管理人さんに連絡してくれって言われてたのを思い出し、慌てて学校に電話をかけた。
 「どうも…雨がちょっとヒドいんで今日は練習中止しにしますね」
 「おう、そうか。あ、でも、もう誰か来てたぞ…」管理人さんに言われて俺はまさかって思った。この雨の中で練習しようなんて奴は…1人だけいた。電話を切ってからすぐにケイタの携帯を鳴らしてみたけど、ケイタは電話に出ない。
 急いで着替えてから車を走らせた。
 学校に着くと、グランドにはびしょ濡れになりながらボールを蹴っているケイタの姿。俺は半分呆れた顔でグランドに。
 「おはようございます!やっぱりこの雨だとみんな来ないですね」泥だらけになりながら微笑むケイタ。俺がもしサッカーの神様だったら、嬉しくて抱きしめてやっただろうに。
 「ホントにおまえは…」言いかけてから苦笑いして、俺もスパイクに履き替えた。雨なんてもうどうでもいい。「よし、やるか…」
 2人でずぶ濡れになりながらボールを蹴っていたら、しばらくしてフザケるなってぐらい強烈な雨。さすがに限界を感じ、大急ぎで車に駆け込んで避難した。
 「止まないですかね…」窓の外を眺めてボソッと呟いたケイタを見て、俺はおかしくって声を出して大笑いした。サッカーが好きとかそういうレベルじゃない。
 こいつはアズレプの魂だ。



★寝不足ながらなんとか頑張ってます!応援のコメント、ワンクリック大歓迎です★
★最近ヤンチャにサッカーしてたら足にヒビが…↓↓★
★次回第15話 9/20UP予定です★
 
 

第15話 『第2回アズレプ会議』

 バイト帰り、いつものバーガーショップ、集まったのは俺とアッチ、そしてよっP。年長組によるアズレプ会議だ。議題はフォーメーションをどうするか。
 何人かの友達に、社会人サッカーをやってる人がいたら、練習試合をしたいから紹介して、ってメールを送ったら、1人の女友達から良い返事が返ってきた。社会人サッカーではないけど、その子が通ってる専門学校のサッカーチームが是非試合したいって。もちろん大喜びでお願いした。次の試合、相手は福祉専門学校のチーム。そのための作戦会議。
 話し合いの結果、フォーメーションは4-4-1、中盤は菱形にすることに決定した。前回の試合の前半と後半の間を取った感じ。
 「早く11人でサッカーしたいね」よっPはそう言いながら、冷えてモサモサになったフライドポテトを口に運んだ。確かに、やっぱりサッカーは11人でやるもんだ。今回もワッタはバイトで来れないから仕方ないんだけど。
 「問題はサイドバックですよね」2杯目のココアを飲みながらアッチが呟いた。
 基礎練習をみっちりやってるおかげで、マッチョもケンも初心者にしてはかなり上手くなってきた。特にケンは同い年のケイタに対抗意識を燃やして、学校の昼休みも練習しているらしく、上達が早い。それでもまだ1回しか試合をしていないから不安は拭えない。
 「DFはね、経験を積むしかないからな、後はキーパーのカメだな…」そう俺が言って3人とも笑った。すっかり最近じゃマサのあだ名はカメ。ユニフォームの名前もKAMEにしてやろうか。
 「でも、最近ちょっとGKらしくなってきたよね」実際最近のカメは、セリエAとかプレミアの試合を観てGKの動きを勉強しているらしく、それなりにらしい動きになってきている。
 「とりあえず今はチームが経験を積むことが優先だな、そのための試合って感じで」みんな頷いたけど、それでも勝つことだけしか考えてない。やるからにはね、負けたくない。
 「…ってかさ、みんな1番大事なこと忘れてるよね」いきなり真面目な顔でよっPがそう言って、俺とアッチは何のことだか分からずに顔を見合わせた。目線を戻すと、よっPはまだ真面目な顔。
 「アレだよ、マネージャーの女の子。早く見つけないと」真剣な顔でそんなことを言うから、俺もアッチも声を出して大笑い。
 「ホント、よっPは…でも大事だよな、女の子の応援とかね」
 「だろ?絶対必要だって。タオルとか渡されたいじゃん」
 「確かに…必要ですね」
 よっPの希望は、可愛くてあんまりサッカーに詳しくなくて、それでいてサッカーを観るのが大好きな十代の女の子。彼氏のいない女子高生って要望は却下。
 またオーナーの仕事が1つ増えた。



★たくさんのコメント・感想ありがとうございます!スッゴイ嬉しいです★
☆次回、第16話は9/22UP予定です☆
★バッジョ現役復帰の噂…もう1度、たとえ1分だけでも観たいです★
 
 

第16話  『色々と羨ましい…』

 みんなが集合してすぐに、ホワイトボードを使ってフォーメーションと戦術の確認。4バックのディフェンスラインは前回と変わらず、右にケン、左にマッチョ、センターにアタルとユアサ。中盤はワンボランチでアッチ、左サイドにタクちゃん、右サイドはケイタ、そして菱形の頂点、トップ下の位置に俺。ワントップはよっPだ。
 両サイドバックのポジショニングをもう一度確認した。練習のなかで何度も修正はしてるけど念のため。作戦は単純に、クリアボールはサイドへ、タクちゃんとケイタを起点にして攻める。
 相手チームの代表と軽い挨拶、試合時間と人数を確認してから、それぞれにアップを始めた。試合開始は30分後。
 パス回しを軽くしてから、ラストの15分は攻めと守りに分かれてのフォーメーション練習。5分前に終わらせ、もう1度集まり、水分補給とミーティング。
 「あっ、イイな~イングランド代表だ」ユニフォームに着替えた相手を見て、アッチが羨ましそうにそう言った。2002年イングランド代表モデルの白。赤いラインの入ったシンプルなアンブロのゲームシャツ。
 「いや、絶対オレらの方がカッコイイです…」ケイタがそれにボソッと返した。ここでも負けず嫌いを発揮。けど、まだユニフォームは出来上がってないので俺たちはナイキの緑色したビブス。
 いつもよりみんなソワソワした雰囲気だった。試合だからってのもあるんだけど、理由はたぶん他にある。相手チームの応援に来た女の子たちがいるからだ。
 「やっぱり必要だな」よっPはそう言いながら女の子たちを眺めてた。福祉の専門学校って言ってたからそこの生徒たちなんだろう、相手ベンチには5人の女の子。アズレプのベンチにはドリンクと荷物。
 「あんなの見せられたら負けられないっすね」
 「負けられね~な!」頷き合ったユアサとアタルが両手でハイタッチをして気合いを入れた。それを見てたタクちゃんは苦笑い。
 「よし、そろそろ行こう」キャプテンのアッチが先頭をきって、うさぎたちはゾロゾロとピッチに散らばっていった。

 序盤戦は一進一退の攻防、中盤のつぶし合いになった。
 俺はトップ下よりやや下がりめまで戻って、アッチと2人で相手のセンターハーフを自由にさせないようプレー。タクちゃんとケイタも下がり気味で、まずはディフェンスからって感じだ。
 学生のチームだけあって、よく走るし連携もそれなりにできている。目立って上手い奴はいないんだけど、なんだか地味にまとまったサッカーをしてくる相手に、アズレプは次第に攻め込まれ始めた。
 そして前半17分、抜かれそうになったケンが相手の腕を掴んで倒してしまい、明らかなファール、嫌な位置からのFKを与えてしまった。
 偽イングランド代表11番の蹴ったボールはGKカメの正面へ、だがこのシュートをカメはファンブル、こぼれたトコロをFWに決められてしまった。大喜びでキャーキャーと声を上げる相手ベンチ。
 「まだ大丈夫だって!」落ち込んで肩を落としたマサの背中を、駆け寄ったケンがポンポンッと2度叩いた。カメは「大丈夫だ」と顔を上げ、両の拳を合わせて気持ちを切り替えた。
 ひと呼吸吐いてから周りを見渡す、ケイタとタクちゃんと目があった。センターサークルにはよっP。みんな攻めたくてしょうがないって顔してやがる。アッチからも『行ってこい』のサインが出た。
 さぁ、反撃開始だ。



★コメント・感想・ワンクリック…いただけると嬉しいです★ 
☆反撃開始の第17話は9/23UP予定☆
★アズレプサポーター・マネージャー募集中です。笑★ 
 

第17話 『勢い良く。勢い良く…』

 「ユアサ、ボランチに上がれ!アタル任せたぞ!」アッチの指示で最終ラインは3枚に、ユアサを前に上げてダブルボランチにして、ケイタとタクちゃんの守備の負担を減らす。俺もそれに伴って本来のトップ下の位置まで上がった。普段は守備の意識の強いアッチだけど、1失点したことでガラッと攻撃的になる。こいつもなに気に負けず嫌いだ。
 1枚減ったDFラインの裏を何度も狙われたけど、持ち前の運動量とスピードで、アタルがなんとかソレを食い止め続けた。
 「ライン上げよう」取り返すとアタルは声を出して、ズルズルと下がりっぱなしになったDFラインを修正する。
 俺はボールを追っかけまわして前線からプレッシャーをかけた。相手が苦し紛れのパスを出せば、ケイタとタクちゃんがそれを奪う。
 「逆サイド!タクちゃんフリーだ!」上手い具合にケイタがボールを奪った瞬間、左サイドのタクちゃんが相手DFの裏を取ってフリーに。よっPの声でそれに気が付いたケイタは狙いすましたロングボールを送った。
 全速力で走りながら、タクちゃんは送られてきたボールをつま先で軽く触ってトラップ、しなやかなタッチで完全にボールの勢いを殺した。
 「マジかよ!?」あまりに芸術的なボールコントロールに思わず声が漏れた。まるでベルカンプだ。シュートは残念ながらバーの上に外れたけど、そのワンプレーには相手の選手からも賞賛の声。
 前半24分、今度はケイタが魅せた。右サイドでパスを受けると、そのままドリブルで持って上がり中に切り込む、DF2人を抜き去ってから強烈なミドルシュート、GKは全く反応できなかったけど、惜しくもボールはポストに嫌われて弾き返された。
 完全に流れがきていた。
 そして前半29分、ケイタが右サイドをえぐって上げたクロス。よっPと相手DFの頭を越えて逆サイドに流れたボールをタクちゃんがダイレクトでシュート、GKがなんとか弾いたボール、つめていた俺はなんなくゴールに押し込んだ。
 相手ベンチの黄色い悲鳴と、ウサギたちの歓喜の叫び。小さなガッツポーズ、ほとんどタクちゃんの得点みたいなもんだけど。走って自陣まで戻る、まだまだ攻め足りない。今なら何点だって取れそうな気がする。
 …なのに、ここで前半終了の笛。

 「絶対逆転できるぞ!」みんな汗だくで疲れきってたけど、テンションはガンガン上がってた。肩で息をしながら再度ポジションを確認。ドリンクを飲めるだけ喉に流し込んで、勢い良くピッチに散らばって後半戦に臨む。
 後半もアズレプは攻め続けた。何度もサイドを基点に相手DFを崩すんだけど、フィニッシュの精度を欠いて得点を奪えない。俺、ケイタ、よっPとつないで最後はタクちゃんへ、前に出たGKの動きを見て冷静に放たれたループシュートも、ゴール寸前のところでDFに掻き出されてしまった。
 メンバーを何人か入れ替えてきた相手に対して、10人丁度しかいないアズレプ。しだいに疲れから足が止まり、なかなかボールを拾えなくなる。攻め込まれる時間帯、ズルズルと押し込まれ始めたDFライン。
 後半20分、早めに入れられた相手のロングボールをアタルがヘディングでサイドにクリア、そのボールがケンの目の前へ。逆サイドのタクちゃんまで届かせようと、ケンは渾身の力を込めて右足を振りぬいた。
 「ぐふっ…」蹴られたボールは狙いを大きく逸れて、勢い良くアタルのみぞおち辺りにヒット…お腹を押さえて苦しがるアタルを尻目に、こぼれたボールを拾った相手のFWがカメと1対1になり、冷静にゴール右隅に蹴りこんだ。
 痛恨の失点。最後まで諦めずに攻め続けたものの、ゴールを割れぬままゲームセット…
 黄色い歓喜の声の中、アズレプ2度目の敗北。まさかの2連敗。



★またも敗戦を喫してしまったアズレプですが…応援よろしくです★
☆そんなアズレプに声援を…サポーター・マネジャー募集中です。笑☆
 
 
  

第18話 『ウサギの反省会』

 1番ヘコんでいたのはケンだった。
 試合の後、みんなでメシでも行くかってことでファミレスに、親睦会と反省会。ホントは初勝利で祝いたかったんだけどね。
 「ホントすいません…」ケンに何度も謝られて、アタルは苦笑いだった。気にするなって言われてもケンはヘコんだまま、自分のミスが失点につながった事が相当堪えたらしい。
 「アレだろ?アタルにムカついてぶつけたんだろ?」カメがそう言って落ち込むケンをからかった。
 「いや~、そんなことないですからねアタルさん!自分、アタルさん大好きですから…ライン上げようってセリフとかホント好きだし…」確かに試合中、アタルがライン上げようって言うとケンは笑顔で走り出す。それを思い出してみんな大笑い。大好きって言われてアタルはちょっと照れた顔。
 「攻めてるときにしっかり点を取ってればな、勝てた試合だったのにな…」攻撃陣も反省でいっぱいだった。攻め込んでた時間帯にあと1点でも取れてれば結果は違っただハズ。俺自身も決めなきゃならないようなシュートを何本か外したし…よっPもタクちゃんもケイタも、自分が決めてればって、そんな表情。
 どう攻めるか?どう守るか?ご飯を食べながら10人全員で話し合った。カバンの中からホワイトボードを取り出して、それぞれに思ったことを言い合って。
 「ちょっといいですか…中盤からの展開なんですけど…」普段、無口でほとんど喋らないタクちゃんが身を乗り出して話し始めたので、みんなビックリしてタクちゃんに注目した。よっPは嬉しそうにニヤニヤと俺の方を見た。たぶんお互い同じ気持ち。
 「中盤でキープしてタメを作ることですよね、前に前に急がないで、速攻だけじゃなくて攻撃をしっかり組み立てないとダメですよね」誰もがそれに頷いた。
 アズレプの攻めは前線にロングボールを蹴りこむか、サイドのドリブル突破しか今のところパターンが無い。中盤は相手に支配されっぱなし、やられたい放題。
 次の試合に向けての課題は見えた。サッカーの話以外にも、くだらない話を長々としてから解散。帰り際によっPが俺に言った。
 「なんか楽しいね」
 「最高にね」俺は同じ笑顔で頷いた。



★これからのアズレプに応援のコメントよろしくです!★
☆次回 第19話『真昼間の河川敷』9/26UP予定☆
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Football Baton

 Ruby-daysのnatsuさんからFootball Baton受け取りました!題材がサッカーとはいえ、小説なのにこのバトンをまわしていただいてホント嬉しいです。
 サッカーの事とか書きたいけど、このブログは小説だけで気持ちを伝えようって決めてたのですが、サッカー好きですから…喜んで応えます♪


全文を表示 »

第19話 『真昼間の河川敷』

 休日の日はいつも、DVDを借りてきたり、映画館にいったり、見逃したサッカーの試合の再放送を観たりしてマッタリと過ごすんだけど、その日は昼間っからよっPに呼び出されて河川敷に行った。もちろん2人ともジャージ姿にスパイクとボールを持って。
 「小学生みたいだな俺ら」
 「休日にサッカーしに河川敷くる20代も珍しいよな」
 そう言いながらもけっこう真面目に練習。よっPはこないだの試合で自分の基礎の出来てなさに腹が立ったらしく、俺と休みが重なったらコッソリ2人で練習をしようと狙っていたみたいだ。
 「とりあえずポストプレー出来るようになりたい」あまり足が速くなく、走りこむ体力も微妙ってことで、よっPはまずポスト役をこなそうと考えた。初心者のわりに足元は意外と上手い、長所を活かす作戦ってわけ。
 「まずボールをしっかりと足元におさめることから、トラップの練習だな」強いボール、弱いボール、浮き球、どんなボールでもしっかりと自分のボールにできるように何度も繰り返し練習。ある程度出来るようになったら今度は来たボールをダイレクトで相手に返す。
 かなりの長い時間、ずっと同じ練習ばっかりやっていたけど、全然飽きなかった。よっPがちょっとずづだけど確実に上手くなっていくのが嬉しくて楽しくて。
 「そろそろ休憩しよっ」そう言って俺はよっPからのパスをトラップすると見せかけ、股を通してから右足インサイドに当てて方向転換、勢い良く反転してからボールを錆びてボロボロのゴールに打ち込んだ。
 「イイなソレ!もう1回やってみて」
 何度か手本を見せると、今度はよっPが挑戦。なんとかシュートまではもっていけるんだけど、ギコチない自分の動きによっPは不満そうな顔をした。
 河川敷の階段に腰を下ろし、スポーツドリンクを飲みながら、芝なんだか土なんだか分からないようなボコボコのグランドを眺めて一服。汗をかいて火照った体に冷たい風が気持ちよかった。
 「ココってアレだよな、花火した時だっけ?」なんだか遠い目をしながらよっPはセブンスターに火を点けた。
 「あぁ、よっPが携帯破壊されそうになったトコだよな」ちょっと昔を思い出して苦笑い。
 花火の時に元カノと喧嘩して、よっPは携帯を地面に思いっきり叩きつけられた、夏の始まりの頃。メールを見られて浮気しただとかしてないだとかで。バッテリーが吹っ飛んだだけで携帯は幸い壊れなかったんだけど。
 「なんかさ、あいつと別れてからずっとヘコんでて…毎日楽しくなくて。でもサッカーやり始めたおかげで救われたなって感じるんだよね、集中するモノができたっていうか」
 俺は黙って頷いた。3年ぐらい付き合った彼女と別れたときのよっPの姿を知ってたし、気持ちも言いたい事も分かっていたから。
 「こないだメシ食った時にさ、あの無口なタクちゃんまで一緒になってサッカーの話で熱くなって…なんかチームだな~仲間ってイイなって本気で思ったんだよね」
 それは俺も思った事だった。やっぱりお互いに同じ事を感じてたみたいだ、さすが同い年。なんだかスゲェ嬉しい。少しの沈黙、それから俺は我慢できずに声を出して笑った。
 「ってかクサイね…」
 「やっぱり?」
 「青春ドラマみたい」
 「俺も思った…」
 顔を見合わせて今度は大笑い。ってか照れ笑い。真っ昼間の河川敷で、汗びっしょりになりながら、煙草とスポーツドリンク持って笑う2人。たまに通る自転車の学生や、犬の散歩のおばさんなんかはそれを見てどう思っただろう。
 「最高のチームにしたいよな」
 「そろそろ勝ちたいね」
 辛いこと、悲しいこと、切ないこと、色々あるけど…今の僕らにはサッカーがある。言葉にするとちょっと照れくさいけどね。



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第20話 『10羽のウサギとカメ1匹』

 綺麗に整備されたフィールド、その上に引かれた真っ白なライン。時間になって照明が灯ると、その姿がハッキリと目前に現れた。残念ながら芝ではないんだけど、ちょっとした観客席もあるし、市内では最も環境の良いグランドの1つ、花咲球技場。
 「すげぇ、やっぱり広いですね」練習している小学校のグランドと比べると1.5倍以上の広さだ。ケイタはソレを見て子供みたいに無邪気な笑顔。
 「え!?ペナルティエリアってあんなに狭いんですか?」初めてちゃんとラインの引かれたフィールドを生で見たカメが驚いてそう言った。
 「狭いか?むしろ広いだろ」
 「だって…あっ、もしかしてペナルティエリアって外側ですか?」どうやらカメはゴールエリアをペナルティエリアと勘違いしたらしい。気が付いて恥ずかしそうな顔をした。TVで見たことあるハズなのに、よっぽど緊張しているんだろう。でも、そのおかげでみんなの緊張は少し解れた、カメが笑わせてくれたおかげで。
 試合は突然決まった。
 知らない番号から携帯に着信があって、誰だろうと思って電話に出てみたら、以前サッカーコーナーで接客して仲良くなった人からだった。社会人のサッカーチームでやっている人で、今度練習試合でも…って感じで携帯番号を教えていたんだけど、木曜日にグランド予約取れたから練習試合しましょうって、いきなりの申し込み。もちろん俺は即答で「是非お願いします」と答えた。
 それからみんなの予定を確認したら、調理師学校組とマッチョは大丈夫だったんだけど、ケンとケイタとカメ、アッチはバイトが入っていたので、店長にお願いしてなんとかシフトを変更してもらった。
 「うぃ~っす」ちょっと遅れてアタルとタクちゃんが登場、そして2人と一緒にワッタの姿も。
 「久しぶりです…」そう言ってワッタは照れくさそうに頭を軽く下げた。最初の練習以来だからホントに久しぶりだ。
 「やっと…ってかついに11人揃ったじゃん!」よっPとアッチが同時に同じ事を言って嬉しそうな笑顔。
 「じゃあ…」言いながら俺は持ってきた『アズレプ様』と書かれたダンボールを開けた。「こいつの出番だな」
 届いたばかりのアルゼンチンカラーのユニフォームをそれぞれに手渡すと、待ってましたとばかりにみんな受け取ってすぐにソレに着替始めた。
 「ワッタ!」そう言って11番のユニフォームを渡すと、ワッタは驚いた顔で俺の顔を見た。
 「これ…俺のですか?」
 「もちろん、ちゃんと背中に名前入ってるから」バイトで練習にも試合にも参加できないかもしれないので、チームに加入できるか分からないってワッタは言ってたんだけど、俺は内緒でワッタの分もユニフォームを作っておいていた。
 「マジッすか!?」広げると背中にWATTAの文字、すぐに袖を通して、ワッタは嬉しそうな顔。それを見て俺も満足な気分。10羽のウサギには、10枚のユニフォーム。
 最後にグレイ色したGKユニフォームを取り出してカメに渡すと、カメはドキドキした表情でソレを広げた。
 「良かった…MASAって書いてある…」何度もKAMEにしておいたよ、って俺が言ってたから、ホントにKAMEかもってドキドキしていたらしい。どうするか迷ったんだけどね、可哀想だから止めてあげた。
 俺も自分のユニフォームに着替える。背番号9。
 「タケちゃんの、Kは分かるんですけど、なんでK・J・TAKEなんですか?Jってなに?」カメが俺のユニフォームを見て不思議そうに尋ねた。
 「みんなが接客の天才っていうからさ、天才、ジーニアスのJ」販売の得意な俺を調子に乗せるために、社員の人とかが接客の天才って呼び始めて、いつのまにかソレがあだ名みたいになってた。TAKEだとテイクみたいだし、なんだかつまらないのでJを挟んでみたってわけ。
 「あぁ…あれ、でもジーニアスってGじゃないですか?」
 「ウソ!?…」完全に勘違いだった。スノーボードのメーカーでジーニアスってのがあって、そのスペルが…多分もじってあってJから始まるから…間違った。
 いきなりツッコまれてみんなに大笑いされてなんだか切ない気分になったけど、まぁ、イイかなって開き直ることにした。なんだかソレも愉快だし。全員がユニフォームに着替えるとテンションは一気に上がった。相手チームは少し遅れるみたいなので、先にアップを始めることに。
 正装した10羽のウサギとカメ1匹、夜のグランドに飛び出していく。



★やっと小説書き始めて1ヶ月…まだまだ頑張ります★
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第21話 『ウサギと恐竜』

 相手チームの監督は、仕事帰りだからなのかビシッとスーツで決めていて、まるでモウリーニョ。だいたい専属の監督がいるってだけでなんだか強そう。でもオーナーとして気持ちで負けられない。
 「監督のサトウです。よろしくね」ニコッと笑顔で手を差し出されて、俺も笑顔で握手。なんだか感じの良い人だった。
 とりあえず試合の形式を話し合う。「30分ハーフでの試合で…」と俺が言うと、サトウさんはまたニコッと笑った。
 「せっかく時間もたっぷりあるから、45分ハーフでやりましょう」
 45分ハーフ…正直、俺自信経験したことなかったし、アズレプは体力に不安があったから45分ハーフはキツいかなって思ったんだけど、とっさに出た答えは「そうですね、せっかくだから45分でやりましょう」だった。30分ぐらいアップしてから試合開始ってことに、少しサトウさんとお互いのチームの話なんかをしてからみんなのトコに戻った。
 「45分ハーフですか!?」1番大きなリアクションをしたのはボランチのアッチだった。今日はアディダスの黄色いキャプテンマークをしっかりと右腕に巻いている。気合いのあらわれ。
 「スゲェ!プロの試合みたいじゃないですか…」ケイタは目をキラキラさせてもう1度「スゲェ…」と呟いた。
 反対側のコートで相手チームがアップを始めた。軽くボールをまわしたり、ストレッチをしているだけなんだけど、今まで対戦したチームとは明らかに違う雰囲気。
 「なんか強そう…なんていうチームなんですか?」アッチの問いに俺はニヤッと笑顔を作ってから答えた。
 「ラプターズ。1部リーグのチームだってさ、今シーズンは2位につけてるらしいよ」
 「1部!?」アッチはさっきよりも驚いてデカイ声を上げた。「いきなり1部って…マジッすか?ラプターってなんかの映画でありましたよね…恐竜かなんかでしたっけ…強そう…」
 「ウサギの相手にとって不足なし…だろ?」
 苦笑いの後、アッチは「トイレ行ってきます」と言って急いで走ってトイレに行った。ガタイは大っきいけど、わりとプレッシャーに弱いキャプテン。
 いつもの3倍くらい緊張しながらのアップ、グランドコンディションは良好。早めに切り上げてフォーメーションと戦術会議。ホワイトボードを使ってこの日のために考えたフォーメーションを説明。その前にアッチはもう1度トイレに、ホントに緊張してるらしい。
 初めての11人。システムは4-3-1-2、GKはカメ。4バックはいつものように、右からケン、アタル、ユアサ、マッチョ。中盤はアッチの1ボランチで、右にケイタ、そして左にワッタだ。トップ下は俺、2トップによっPとタクちゃん。タクちゃんをよりゴールに近いFWの位置に上げて、その攻撃力を存分に発揮させ、中盤はケイタとワッタが組み立てる。場合によっては俺が右に開いて4-3-3にもなるシステムだ。
 相手もアップを終えてそろそろ試合開始。アッチはもう一度トイレへ…戻って来たトコロでピッチに向かう。アルゼンチンブルーと白の縦縞でオメカシしたウサギたち。
 「さぁ、恐竜退治だ」



★感想のコメント、スッゴイ嬉しいです★
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第22話 『蝶のように舞うウサギ』

 この日、初めてアズレプは円陣を組んでみた。
 「それじゃぁ…みなさん頑張りましょう…」
 「……?」期待していたかけ声と違ったせいか、え?って顔でみんなが俺の方を見た。
 「なんか、行くぞぉ!とかそういうのじゃないの?」
 「熱すぎない?ってかキャプテンなんだからアッチがやろうぜ」
 「なんて言います?」
 「あの…早くしないと相手が待ってますよ」アタルの言う通り、ラプターズはすでにそれぞれのポジションに散らばって待っていた。
 「なんでもイイから早く」
 仕切り直しで今度はキャプテンマークを巻いた背番号7、アッチがかけ声をかけることに。でも、なかなか何て言うか決めれない。
 「サッカーっぽいこと言えばいいから、早く!」
 「えっと…アズレプサイドチェンジ!!」
 「おぉ!!…?」夜のグランドに響くウサギたちの咆吼。でも、なんだサイドチェンジって…?意味不明なかけ声だったけど、不思議とみんな気合いの入った顔になってそれぞれのポジションに広がっていった。
 やっぱりピッチに立つと普段の小学校のグランドとは全然違う。広さも照明も土も空気も雰囲気も。相手の年季の入ったユニフォームがやたらと強そうに見えた。ヒュンメルの濃いグリーン。
 前半はアズレプボールのキックオフから始まった。

 やはり緊張しているのか、なかなかボールがつながらない。それに対して相手は中盤の2人、14番と8番を起点にしてゲームを組み立ててくる。特に14番はサイドにボールを散らしたり、中盤でタメを作ったりしてやっかいだった。
 だが、アズレプのDF陣は崩れない。アタルがケンに、ユアサがマッチョにそれぞれ指示を出してラインを整える。ケイタとワッタが走り回って簡単にはパスを出させない。FWの3人も積極的に前からプレッシャーをかけてディフェンスから流れを作る。アッチはアグレッシブなディフェンスで決定的な仕事を相手にさせない。
 序盤戦は攻め込まれてはいたけど、悪い流れではなかった。
 そして前半9分、マッチョが1度抜かれかけながらもなんとかボールを奪ったトコロからアズレプの攻撃が始まった。
 マッチョは奪ったボールをフリーのワッタへ、ワッタは中央にボールを運びながらパスコースを探す。相手のボランチがプレッシャーをかけるが、ワッタは細かいタッチでいとも簡単にソレを抜き去った。だが、もう1人のボランチがタイミング良くカバーに入り、2人に囲まれてしまう。14番と8番に囲まれながら、ワッタは足の裏とアウトサイドを上手く使ってボールをキープ、踊るようなステップで囲まれたまま中央からやや右へ。
 「ワッタ!」そう叫んだ瞬間、フォローに入ろうと下がった俺の頭上をボールがぬけていった。とっさに振り返ると、上がり気味になっていた相手DFラインの裏のスペースにボールが落ちていく、そこに走り込む背番号20の姿。タクちゃんは完全に相手を置き去りにして独走状態、そしてGKが飛び出そうとした瞬間を狙って得意の左足を振り抜いた。ボールはGKの脇をぬけてゴール右隅、サイドネットに突き刺さった。
 一瞬の沈黙…そして歓喜の声。初めての先制点。左利きの20番は期待を裏切らない。
 それでもまだ緑の恐竜たちは余裕の表情だった。声を掛け合ってマークとポジショニングを確認し合い、キックオフから、フィールドを大きく使ってボールを回し、焦りなく試合を進める。
 アズレプは必死にボールを追っかけ回した。滑り込んで土まみれになってもすぐに立ち上がって走り出す。全員がまるでガットゥーゾ。
 そして前半17分、またも左サイドでボールを受けたワッタがドリブルでボールをキープ、サイドに開いたタクちゃんを囮に中央に切り込んだ。右サイドでケイタの動きだし、だがワッタはそれも囮にして中央を持ち上がる。相手を焦らすようなドリブル、このウサギは蝶のように舞う。そして足裏でボールを引いたかと思うと、フワッと敵の意表を衝くようなパス。
 またしてもDFの頭上を抜けたボール、今度は引かずにパスを待っていた俺はそのボールを胸トラップで前に落として、右サイドをドリブルでエグってからセンタリング。マイナス気味で上がったボールを、大外から走り込んでいたタクちゃんがダイレクトで蹴りこんだ。シュートはDFが出した足に当たって方向が変わり、逆を衝かれたGKをあざ笑うかのようにゴールに吸い込まれた。
 信じられなかった。まだゲームは始まって20分も経っていないっていうのに2得点。しかも相手を崩しての得点だ。ラプターズにも焦りの表情が見えてきた。中盤の14番が「しっかりしろよ!」とDF陣にゲキを飛ばす。FWの奴らもなかなかシュートまで持っていけなくてイライラしている。
 ウサギが恐竜の尻尾に噛みついた。



★みなさんの応援ホントに嬉しいです★
☆本日のお勧めブログ→ロマニスタのてぃーたいむ(改)

 
 
 
 

第23話 『忘れられないけど憶えてない』

 「1回落ち着いてマークの確認しろ!11と20しっかり見て!攻めも最後シュートで終われ!」ラプターズベンチから監督の声が響いた。さすがに2点のリードを奪われて焦ってきたみたいだ。
 中盤でのワッタへのプレッシャーが強くなる。ボールが入った瞬間に体を当てられ、自由にコントロールさせてもらえない、細身のワッタを容赦なく14番が削る。ファールギリギリの上手いディフェンス。
 前半25分、中盤でワッタがボールを簡単に奪われた瞬間、安心しきってラインを上げていたDFラインの裏に14番のスルーパス。完全に不意を衝かれたアタルとユアサが相手FWに裏を取られた。
 「キーパー出ろぉ!!」必死に走りながらケンが叫ぶ。だが、躊躇して飛び出すタイミングを失ったカメは成すすべなくゴールを奪われてしまった。痛恨の失点。
 この1点で流れが悪くなり始めた。裏を狙われることを警戒してDFがラインを上げれなくなり、そのせいで中盤にスペースが生まれ、相手の好きなようにやられる。いつもの展開。
 だが、その悪い流れをケイタが断ち切った。ボランチの位置まで下がってディフェンスにまわり、相手14番と8番を執拗に追い回す、泥臭いディフェンス。パスの出所を潰されたことで相手の攻撃も機能しなくなる。
 「ライン上げましょう!」いつものアタルのセリフ、だがそう叫んだのはケンだった。
 「おう、ライン上げよう」弱気になりかけていたDFラインが生き返った。
 そして前半35分。アッチが相手のパスをカット、奪ったボールをケイタへ、ケイタはキープして相手を引き付けてからワッタにパス。14番がすぐにワッタに駆け寄る、だがワッタはそのボールをダイレクトで逆サイドに開いていた俺に送った。
 フリーでボールを受けた俺は、そのままドリブルで右サイドを持って上がる。相手サイドバックは縦に抜かれないように間合いをあけて対応、俺は突破するフェイントで、後ろから上がってきたケイタにボールをあずけた。サイドバックがケイタに気を取られた瞬間、ケイタからの絶妙のリターンがスペースへ。完全に右サイドを崩した。
 「タケ!」なかは2枚。中央によっP、ファーサイドにタクちゃん。だが相手DFも人数が揃ってる。俺はセンタリングを上げずにもう1度ボールをケイタに戻した。ペナルティエリア手前、ケイタなら十分狙える位置だ。センターバックがシュートコースをふさごうと前に飛び出してきたが、かまわずにケイタは右足を振りぬいた。
 シュートは相手センターバックの左内モモに当たり、方向を変えてよっPの足元に、トラップしたよっPが慌てて前を向く。
 「打て!よっP!!」完全にフリー、GKもケイタのシュートに体勢を崩してる。俺は必死になって叫んだ。
 本人が1番ビックリしていた。呆然とゴールの前に立ち尽くすよっP。ボールがネットに包まれてからコロコロと転がった。
 「うぉぉぉぉ!よっP!!」静寂を突き破る歓喜の叫び、俺もケイタもタクちゃんも、満面の笑みでよっPに駆け寄った。遅れてアッチが若手お笑い芸人のような走りで輪に加わる。嬉しくてしょうがなかった。揉みくちゃにされながらもよっPはまだ信じられないって顔。
 「初得点じゃん!」その言葉にもよっPの表情は変わらない。
 「…目の前にポカンッてゴールが見えて…ボールがあって…その後…憶えてない」初ゴールの感想に、みんな大笑いした。



★コメント・感想 大歓迎です★
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プロフィール

K・J・TAKE

Author:K・J・TAKE
実話から生まれた物語。
色んな奴らが集まって誕生したサッカーチーム『アズレプ』の愛と感動?の日々。

初小説ですけど頑張って書いていこうと思います!
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