2005-09

第23話 『忘れられないけど憶えてない』

 「1回落ち着いてマークの確認しろ!11と20しっかり見て!攻めも最後シュートで終われ!」ラプターズベンチから監督の声が響いた。さすがに2点のリードを奪われて焦ってきたみたいだ。
 中盤でのワッタへのプレッシャーが強くなる。ボールが入った瞬間に体を当てられ、自由にコントロールさせてもらえない、細身のワッタを容赦なく14番が削る。ファールギリギリの上手いディフェンス。
 前半25分、中盤でワッタがボールを簡単に奪われた瞬間、安心しきってラインを上げていたDFラインの裏に14番のスルーパス。完全に不意を衝かれたアタルとユアサが相手FWに裏を取られた。
 「キーパー出ろぉ!!」必死に走りながらケンが叫ぶ。だが、躊躇して飛び出すタイミングを失ったカメは成すすべなくゴールを奪われてしまった。痛恨の失点。
 この1点で流れが悪くなり始めた。裏を狙われることを警戒してDFがラインを上げれなくなり、そのせいで中盤にスペースが生まれ、相手の好きなようにやられる。いつもの展開。
 だが、その悪い流れをケイタが断ち切った。ボランチの位置まで下がってディフェンスにまわり、相手14番と8番を執拗に追い回す、泥臭いディフェンス。パスの出所を潰されたことで相手の攻撃も機能しなくなる。
 「ライン上げましょう!」いつものアタルのセリフ、だがそう叫んだのはケンだった。
 「おう、ライン上げよう」弱気になりかけていたDFラインが生き返った。
 そして前半35分。アッチが相手のパスをカット、奪ったボールをケイタへ、ケイタはキープして相手を引き付けてからワッタにパス。14番がすぐにワッタに駆け寄る、だがワッタはそのボールをダイレクトで逆サイドに開いていた俺に送った。
 フリーでボールを受けた俺は、そのままドリブルで右サイドを持って上がる。相手サイドバックは縦に抜かれないように間合いをあけて対応、俺は突破するフェイントで、後ろから上がってきたケイタにボールをあずけた。サイドバックがケイタに気を取られた瞬間、ケイタからの絶妙のリターンがスペースへ。完全に右サイドを崩した。
 「タケ!」なかは2枚。中央によっP、ファーサイドにタクちゃん。だが相手DFも人数が揃ってる。俺はセンタリングを上げずにもう1度ボールをケイタに戻した。ペナルティエリア手前、ケイタなら十分狙える位置だ。センターバックがシュートコースをふさごうと前に飛び出してきたが、かまわずにケイタは右足を振りぬいた。
 シュートは相手センターバックの左内モモに当たり、方向を変えてよっPの足元に、トラップしたよっPが慌てて前を向く。
 「打て!よっP!!」完全にフリー、GKもケイタのシュートに体勢を崩してる。俺は必死になって叫んだ。
 本人が1番ビックリしていた。呆然とゴールの前に立ち尽くすよっP。ボールがネットに包まれてからコロコロと転がった。
 「うぉぉぉぉ!よっP!!」静寂を突き破る歓喜の叫び、俺もケイタもタクちゃんも、満面の笑みでよっPに駆け寄った。遅れてアッチが若手お笑い芸人のような走りで輪に加わる。嬉しくてしょうがなかった。揉みくちゃにされながらもよっPはまだ信じられないって顔。
 「初得点じゃん!」その言葉にもよっPの表情は変わらない。
 「…目の前にポカンッてゴールが見えて…ボールがあって…その後…憶えてない」初ゴールの感想に、みんな大笑いした。



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