2008-08

第18話 『ウサギの反省会』

 1番ヘコんでいたのはケンだった。
 試合の後、みんなでメシでも行くかってことでファミレスに、親睦会と反省会。ホントは初勝利で祝いたかったんだけどね。
 「ホントすいません…」ケンに何度も謝られて、アタルは苦笑いだった。気にするなって言われてもケンはヘコんだまま、自分のミスが失点につながった事が相当堪えたらしい。
 「アレだろ?アタルにムカついてぶつけたんだろ?」カメがそう言って落ち込むケンをからかった。
 「いや〜、そんなことないですからねアタルさん!自分、アタルさん大好きですから…ライン上げようってセリフとかホント好きだし…」確かに試合中、アタルがライン上げようって言うとケンは笑顔で走り出す。それを思い出してみんな大笑い。大好きって言われてアタルはちょっと照れた顔。
 「攻めてるときにしっかり点を取ってればな、勝てた試合だったのにな…」攻撃陣も反省でいっぱいだった。攻め込んでた時間帯にあと1点でも取れてれば結果は違っただハズ。俺自身も決めなきゃならないようなシュートを何本か外したし…よっPもタクちゃんもケイタも、自分が決めてればって、そんな表情。
 どう攻めるか?どう守るか?ご飯を食べながら10人全員で話し合った。カバンの中からホワイトボードを取り出して、それぞれに思ったことを言い合って。
 「ちょっといいですか…中盤からの展開なんですけど…」普段、無口でほとんど喋らないタクちゃんが身を乗り出して話し始めたので、みんなビックリしてタクちゃんに注目した。よっPは嬉しそうにニヤニヤと俺の方を見た。たぶんお互い同じ気持ち。
 「中盤でキープしてタメを作ることですよね、前に前に急がないで、速攻だけじゃなくて攻撃をしっかり組み立てないとダメですよね」誰もがそれに頷いた。
 アズレプの攻めは前線にロングボールを蹴りこむか、サイドのドリブル突破しか今のところパターンが無い。中盤は相手に支配されっぱなし、やられたい放題。
 次の試合に向けての課題は見えた。サッカーの話以外にも、くだらない話を長々としてから解散。帰り際によっPが俺に言った。
 「なんか楽しいね」
 「最高にね」俺は同じ笑顔で頷いた。



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☆次回 第19話『真昼間の河川敷』9/26UP予定☆
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Football Baton

 Ruby-daysのnatsuさんからFootball Baton受け取りました!題材がサッカーとはいえ、小説なのにこのバトンをまわしていただいてホント嬉しいです。
 サッカーの事とか書きたいけど、このブログは小説だけで気持ちを伝えようって決めてたのですが、サッカー好きですから…喜んで応えます♪


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第19話 『真昼間の河川敷』

 休日の日はいつも、DVDを借りてきたり、映画館にいったり、見逃したサッカーの試合の再放送を観たりしてマッタリと過ごすんだけど、その日は昼間っからよっPに呼び出されて河川敷に行った。もちろん2人ともジャージ姿にスパイクとボールを持って。
 「小学生みたいだな俺ら」
 「休日にサッカーしに河川敷くる20代も珍しいよな」
 そう言いながらもけっこう真面目に練習。よっPはこないだの試合で自分の基礎の出来てなさに腹が立ったらしく、俺と休みが重なったらコッソリ2人で練習をしようと狙っていたみたいだ。
 「とりあえずポストプレー出来るようになりたい」あまり足が速くなく、走りこむ体力も微妙ってことで、よっPはまずポスト役をこなそうと考えた。初心者のわりに足元は意外と上手い、長所を活かす作戦ってわけ。
 「まずボールをしっかりと足元におさめることから、トラップの練習だな」強いボール、弱いボール、浮き球、どんなボールでもしっかりと自分のボールにできるように何度も繰り返し練習。ある程度出来るようになったら今度は来たボールをダイレクトで相手に返す。
 かなりの長い時間、ずっと同じ練習ばっかりやっていたけど、全然飽きなかった。よっPがちょっとずづだけど確実に上手くなっていくのが嬉しくて楽しくて。
 「そろそろ休憩しよっ」そう言って俺はよっPからのパスをトラップすると見せかけ、股を通してから右足インサイドに当てて方向転換、勢い良く反転してからボールを錆びてボロボロのゴールに打ち込んだ。
 「イイなソレ!もう1回やってみて」
 何度か手本を見せると、今度はよっPが挑戦。なんとかシュートまではもっていけるんだけど、ギコチない自分の動きによっPは不満そうな顔をした。
 河川敷の階段に腰を下ろし、スポーツドリンクを飲みながら、芝なんだか土なんだか分からないようなボコボコのグランドを眺めて一服。汗をかいて火照った体に冷たい風が気持ちよかった。
 「ココってアレだよな、花火した時だっけ?」なんだか遠い目をしながらよっPはセブンスターに火を点けた。
 「あぁ、よっPが携帯破壊されそうになったトコだよな」ちょっと昔を思い出して苦笑い。
 花火の時に元カノと喧嘩して、よっPは携帯を地面に思いっきり叩きつけられた、夏の始まりの頃。メールを見られて浮気しただとかしてないだとかで。バッテリーが吹っ飛んだだけで携帯は幸い壊れなかったんだけど。
 「なんかさ、あいつと別れてからずっとヘコんでて…毎日楽しくなくて。でもサッカーやり始めたおかげで救われたなって感じるんだよね、集中するモノができたっていうか」
 俺は黙って頷いた。3年ぐらい付き合った彼女と別れたときのよっPの姿を知ってたし、気持ちも言いたい事も分かっていたから。
 「こないだメシ食った時にさ、あの無口なタクちゃんまで一緒になってサッカーの話で熱くなって…なんかチームだな〜仲間ってイイなって本気で思ったんだよね」
 それは俺も思った事だった。やっぱりお互いに同じ事を感じてたみたいだ、さすが同い年。なんだかスゲェ嬉しい。少しの沈黙、それから俺は我慢できずに声を出して笑った。
 「ってかクサイね…」
 「やっぱり?」
 「青春ドラマみたい」
 「俺も思った…」
 顔を見合わせて今度は大笑い。ってか照れ笑い。真っ昼間の河川敷で、汗びっしょりになりながら、煙草とスポーツドリンク持って笑う2人。たまに通る自転車の学生や、犬の散歩のおばさんなんかはそれを見てどう思っただろう。
 「最高のチームにしたいよな」
 「そろそろ勝ちたいね」
 辛いこと、悲しいこと、切ないこと、色々あるけど…今の僕らにはサッカーがある。言葉にするとちょっと照れくさいけどね。



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第20話 『10羽のウサギとカメ1匹』

 綺麗に整備されたフィールド、その上に引かれた真っ白なライン。時間になって照明が灯ると、その姿がハッキリと目前に現れた。残念ながら芝ではないんだけど、ちょっとした観客席もあるし、市内では最も環境の良いグランドの1つ、花咲球技場。
 「すげぇ、やっぱり広いですね」練習している小学校のグランドと比べると1.5倍以上の広さだ。ケイタはソレを見て子供みたいに無邪気な笑顔。
 「え!?ペナルティエリアってあんなに狭いんですか?」初めてちゃんとラインの引かれたフィールドを生で見たカメが驚いてそう言った。
 「狭いか?むしろ広いだろ」
 「だって…あっ、もしかしてペナルティエリアって外側ですか?」どうやらカメはゴールエリアをペナルティエリアと勘違いしたらしい。気が付いて恥ずかしそうな顔をした。TVで見たことあるハズなのに、よっぽど緊張しているんだろう。でも、そのおかげでみんなの緊張は少し解れた、カメが笑わせてくれたおかげで。
 試合は突然決まった。
 知らない番号から携帯に着信があって、誰だろうと思って電話に出てみたら、以前サッカーコーナーで接客して仲良くなった人からだった。社会人のサッカーチームでやっている人で、今度練習試合でも…って感じで携帯番号を教えていたんだけど、木曜日にグランド予約取れたから練習試合しましょうって、いきなりの申し込み。もちろん俺は即答で「是非お願いします」と答えた。
 それからみんなの予定を確認したら、調理師学校組とマッチョは大丈夫だったんだけど、ケンとケイタとカメ、アッチはバイトが入っていたので、店長にお願いしてなんとかシフトを変更してもらった。
 「うぃ〜っす」ちょっと遅れてアタルとタクちゃんが登場、そして2人と一緒にワッタの姿も。
 「久しぶりです…」そう言ってワッタは照れくさそうに頭を軽く下げた。最初の練習以来だからホントに久しぶりだ。
 「やっと…ってかついに11人揃ったじゃん!」よっPとアッチが同時に同じ事を言って嬉しそうな笑顔。
 「じゃあ…」言いながら俺は持ってきた『アズレプ様』と書かれたダンボールを開けた。「こいつの出番だな」
 届いたばかりのアルゼンチンカラーのユニフォームをそれぞれに手渡すと、待ってましたとばかりにみんな受け取ってすぐにソレに着替始めた。
 「ワッタ!」そう言って11番のユニフォームを渡すと、ワッタは驚いた顔で俺の顔を見た。
 「これ…俺のですか?」
 「もちろん、ちゃんと背中に名前入ってるから」バイトで練習にも試合にも参加できないかもしれないので、チームに加入できるか分からないってワッタは言ってたんだけど、俺は内緒でワッタの分もユニフォームを作っておいていた。
 「マジッすか!?」広げると背中にWATTAの文字、すぐに袖を通して、ワッタは嬉しそうな顔。それを見て俺も満足な気分。10羽のウサギには、10枚のユニフォーム。
 最後にグレイ色したGKユニフォームを取り出してカメに渡すと、カメはドキドキした表情でソレを広げた。
 「良かった…MASAって書いてある…」何度もKAMEにしておいたよ、って俺が言ってたから、ホントにKAMEかもってドキドキしていたらしい。どうするか迷ったんだけどね、可哀想だから止めてあげた。
 俺も自分のユニフォームに着替える。背番号9。
 「タケちゃんの、Kは分かるんですけど、なんでK・J・TAKEなんですか?Jってなに?」カメが俺のユニフォームを見て不思議そうに尋ねた。
 「みんなが接客の天才っていうからさ、天才、ジーニアスのJ」販売の得意な俺を調子に乗せるために、社員の人とかが接客の天才って呼び始めて、いつのまにかソレがあだ名みたいになってた。TAKEだとテイクみたいだし、なんだかつまらないのでJを挟んでみたってわけ。
 「あぁ…あれ、でもジーニアスってGじゃないですか?」
 「ウソ!?…」完全に勘違いだった。スノーボードのメーカーでジーニアスってのがあって、そのスペルが…多分もじってあってJから始まるから…間違った。
 いきなりツッコまれてみんなに大笑いされてなんだか切ない気分になったけど、まぁ、イイかなって開き直ることにした。なんだかソレも愉快だし。全員がユニフォームに着替えるとテンションは一気に上がった。相手チームは少し遅れるみたいなので、先にアップを始めることに。
 正装した10羽のウサギとカメ1匹、夜のグランドに飛び出していく。



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第21話 『ウサギと恐竜』

 相手チームの監督は、仕事帰りだからなのかビシッとスーツで決めていて、まるでモウリーニョ。だいたい専属の監督がいるってだけでなんだか強そう。でもオーナーとして気持ちで負けられない。
 「監督のサトウです。よろしくね」ニコッと笑顔で手を差し出されて、俺も笑顔で握手。なんだか感じの良い人だった。
 とりあえず試合の形式を話し合う。「30分ハーフでの試合で…」と俺が言うと、サトウさんはまたニコッと笑った。
 「せっかく時間もたっぷりあるから、45分ハーフでやりましょう」
 45分ハーフ…正直、俺自信経験したことなかったし、アズレプは体力に不安があったから45分ハーフはキツいかなって思ったんだけど、とっさに出た答えは「そうですね、せっかくだから45分でやりましょう」だった。30分ぐらいアップしてから試合開始ってことに、少しサトウさんとお互いのチームの話なんかをしてからみんなのトコに戻った。
 「45分ハーフですか!?」1番大きなリアクションをしたのはボランチのアッチだった。今日はアディダスの黄色いキャプテンマークをしっかりと右腕に巻いている。気合いのあらわれ。
 「スゲェ!プロの試合みたいじゃないですか…」ケイタは目をキラキラさせてもう1度「スゲェ…」と呟いた。
 反対側のコートで相手チームがアップを始めた。軽くボールをまわしたり、ストレッチをしているだけなんだけど、今まで対戦したチームとは明らかに違う雰囲気。
 「なんか強そう…なんていうチームなんですか?」アッチの問いに俺はニヤッと笑顔を作ってから答えた。
 「ラプターズ。1部リーグのチームだってさ、今シーズンは2位につけてるらしいよ」
 「1部!?」アッチはさっきよりも驚いてデカイ声を上げた。「いきなり1部って…マジッすか?ラプターってなんかの映画でありましたよね…恐竜かなんかでしたっけ…強そう…」
 「ウサギの相手にとって不足なし…だろ?」
 苦笑いの後、アッチは「トイレ行ってきます」と言って急いで走ってトイレに行った。ガタイは大っきいけど、わりとプレッシャーに弱いキャプテン。
 いつもの3倍くらい緊張しながらのアップ、グランドコンディションは良好。早めに切り上げてフォーメーションと戦術会議。ホワイトボードを使ってこの日のために考えたフォーメーションを説明。その前にアッチはもう1度トイレに、ホントに緊張してるらしい。
 初めての11人。システムは4−3−1−2、GKはカメ。4バックはいつものように、右からケン、アタル、ユアサ、マッチョ。中盤はアッチの1ボランチで、右にケイタ、そして左にワッタだ。トップ下は俺、2トップによっPとタクちゃん。タクちゃんをよりゴールに近いFWの位置に上げて、その攻撃力を存分に発揮させ、中盤はケイタとワッタが組み立てる。場合によっては俺が右に開いて4−3−3にもなるシステムだ。
 相手もアップを終えてそろそろ試合開始。アッチはもう一度トイレへ…戻って来たトコロでピッチに向かう。アルゼンチンブルーと白の縦縞でオメカシしたウサギたち。
 「さぁ、恐竜退治だ」



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第22話 『蝶のように舞うウサギ』

 この日、初めてアズレプは円陣を組んでみた。
 「それじゃぁ…みなさん頑張りましょう…」
 「……?」期待していたかけ声と違ったせいか、え?って顔でみんなが俺の方を見た。
 「なんか、行くぞぉ!とかそういうのじゃないの?」
 「熱すぎない?ってかキャプテンなんだからアッチがやろうぜ」
 「なんて言います?」
 「あの…早くしないと相手が待ってますよ」アタルの言う通り、ラプターズはすでにそれぞれのポジションに散らばって待っていた。
 「なんでもイイから早く」
 仕切り直しで今度はキャプテンマークを巻いた背番号7、アッチがかけ声をかけることに。でも、なかなか何て言うか決めれない。
 「サッカーっぽいこと言えばいいから、早く!」
 「えっと…アズレプサイドチェンジ!!」
 「おぉ!!…?」夜のグランドに響くウサギたちの咆吼。でも、なんだサイドチェンジって…?意味不明なかけ声だったけど、不思議とみんな気合いの入った顔になってそれぞれのポジションに広がっていった。
 やっぱりピッチに立つと普段の小学校のグランドとは全然違う。広さも照明も土も空気も雰囲気も。相手の年季の入ったユニフォームがやたらと強そうに見えた。ヒュンメルの濃いグリーン。
 前半はアズレプボールのキックオフから始まった。

 やはり緊張しているのか、なかなかボールがつながらない。それに対して相手は中盤の2人、14番と8番を起点にしてゲームを組み立ててくる。特に14番はサイドにボールを散らしたり、中盤でタメを作ったりしてやっかいだった。
 だが、アズレプのDF陣は崩れない。アタルがケンに、ユアサがマッチョにそれぞれ指示を出してラインを整える。ケイタとワッタが走り回って簡単にはパスを出させない。FWの3人も積極的に前からプレッシャーをかけてディフェンスから流れを作る。アッチはアグレッシブなディフェンスで決定的な仕事を相手にさせない。
 序盤戦は攻め込まれてはいたけど、悪い流れではなかった。
 そして前半9分、マッチョが1度抜かれかけながらもなんとかボールを奪ったトコロからアズレプの攻撃が始まった。
 マッチョは奪ったボールをフリーのワッタへ、ワッタは中央にボールを運びながらパスコースを探す。相手のボランチがプレッシャーをかけるが、ワッタは細かいタッチでいとも簡単にソレを抜き去った。だが、もう1人のボランチがタイミング良くカバーに入り、2人に囲まれてしまう。14番と8番に囲まれながら、ワッタは足の裏とアウトサイドを上手く使ってボールをキープ、踊るようなステップで囲まれたまま中央からやや右へ。
 「ワッタ!」そう叫んだ瞬間、フォローに入ろうと下がった俺の頭上をボールがぬけていった。とっさに振り返ると、上がり気味になっていた相手DFラインの裏のスペースにボールが落ちていく、そこに走り込む背番号20の姿。タクちゃんは完全に相手を置き去りにして独走状態、そしてGKが飛び出そうとした瞬間を狙って得意の左足を振り抜いた。ボールはGKの脇をぬけてゴール右隅、サイドネットに突き刺さった。
 一瞬の沈黙…そして歓喜の声。初めての先制点。左利きの20番は期待を裏切らない。
 それでもまだ緑の恐竜たちは余裕の表情だった。声を掛け合ってマークとポジショニングを確認し合い、キックオフから、フィールドを大きく使ってボールを回し、焦りなく試合を進める。
 アズレプは必死にボールを追っかけ回した。滑り込んで土まみれになってもすぐに立ち上がって走り出す。全員がまるでガットゥーゾ。
 そして前半17分、またも左サイドでボールを受けたワッタがドリブルでボールをキープ、サイドに開いたタクちゃんを囮に中央に切り込んだ。右サイドでケイタの動きだし、だがワッタはそれも囮にして中央を持ち上がる。相手を焦らすようなドリブル、このウサギは蝶のように舞う。そして足裏でボールを引いたかと思うと、フワッと敵の意表を衝くようなパス。
 またしてもDFの頭上を抜けたボール、今度は引かずにパスを待っていた俺はそのボールを胸トラップで前に落として、右サイドをドリブルでエグってからセンタリング。マイナス気味で上がったボールを、大外から走り込んでいたタクちゃんがダイレクトで蹴りこんだ。シュートはDFが出した足に当たって方向が変わり、逆を衝かれたGKをあざ笑うかのようにゴールに吸い込まれた。
 信じられなかった。まだゲームは始まって20分も経っていないっていうのに2得点。しかも相手を崩しての得点だ。ラプターズにも焦りの表情が見えてきた。中盤の14番が「しっかりしろよ!」とDF陣にゲキを飛ばす。FWの奴らもなかなかシュートまで持っていけなくてイライラしている。
 ウサギが恐竜の尻尾に噛みついた。



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第23話 『忘れられないけど憶えてない』

 「1回落ち着いてマークの確認しろ!11と20しっかり見て!攻めも最後シュートで終われ!」ラプターズベンチから監督の声が響いた。さすがに2点のリードを奪われて焦ってきたみたいだ。
 中盤でのワッタへのプレッシャーが強くなる。ボールが入った瞬間に体を当てられ、自由にコントロールさせてもらえない、細身のワッタを容赦なく14番が削る。ファールギリギリの上手いディフェンス。
 前半25分、中盤でワッタがボールを簡単に奪われた瞬間、安心しきってラインを上げていたDFラインの裏に14番のスルーパス。完全に不意を衝かれたアタルとユアサが相手FWに裏を取られた。
 「キーパー出ろぉ!!」必死に走りながらケンが叫ぶ。だが、躊躇して飛び出すタイミングを失ったカメは成すすべなくゴールを奪われてしまった。痛恨の失点。
 この1点で流れが悪くなり始めた。裏を狙われることを警戒してDFがラインを上げれなくなり、そのせいで中盤にスペースが生まれ、相手の好きなようにやられる。いつもの展開。
 だが、その悪い流れをケイタが断ち切った。ボランチの位置まで下がってディフェンスにまわり、相手14番と8番を執拗に追い回す、泥臭いディフェンス。パスの出所を潰されたことで相手の攻撃も機能しなくなる。
 「ライン上げましょう!」いつものアタルのセリフ、だがそう叫んだのはケンだった。
 「おう、ライン上げよう」弱気になりかけていたDFラインが生き返った。
 そして前半35分。アッチが相手のパスをカット、奪ったボールをケイタへ、ケイタはキープして相手を引き付けてからワッタにパス。14番がすぐにワッタに駆け寄る、だがワッタはそのボールをダイレクトで逆サイドに開いていた俺に送った。
 フリーでボールを受けた俺は、そのままドリブルで右サイドを持って上がる。相手サイドバックは縦に抜かれないように間合いをあけて対応、俺は突破するフェイントで、後ろから上がってきたケイタにボールをあずけた。サイドバックがケイタに気を取られた瞬間、ケイタからの絶妙のリターンがスペースへ。完全に右サイドを崩した。
 「タケ!」なかは2枚。中央によっP、ファーサイドにタクちゃん。だが相手DFも人数が揃ってる。俺はセンタリングを上げずにもう1度ボールをケイタに戻した。ペナルティエリア手前、ケイタなら十分狙える位置だ。センターバックがシュートコースをふさごうと前に飛び出してきたが、かまわずにケイタは右足を振りぬいた。
 シュートは相手センターバックの左内モモに当たり、方向を変えてよっPの足元に、トラップしたよっPが慌てて前を向く。
 「打て!よっP!!」完全にフリー、GKもケイタのシュートに体勢を崩してる。俺は必死になって叫んだ。
 本人が1番ビックリしていた。呆然とゴールの前に立ち尽くすよっP。ボールがネットに包まれてからコロコロと転がった。
 「うぉぉぉぉ!よっP!!」静寂を突き破る歓喜の叫び、俺もケイタもタクちゃんも、満面の笑みでよっPに駆け寄った。遅れてアッチが若手お笑い芸人のような走りで輪に加わる。嬉しくてしょうがなかった。揉みくちゃにされながらもよっPはまだ信じられないって顔。
 「初得点じゃん!」その言葉にもよっPの表情は変わらない。
 「…目の前にポカンッてゴールが見えて…ボールがあって…その後…憶えてない」初ゴールの感想に、みんな大笑いした。



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第24話 『諦メマセン』

 「良いチームですね」前半が終了して引き上げるときに、審判をしていた人にそう言われて、俺はなんだか御満悦。スコアも3−1でリードしてるし。
 「このままいけば絶対勝てますよ!」 
 初めて前半をリードしたまま終えて、ハーフタイムのウサギたちは朝の鶏みたいにハイテンション。極度の興奮状態だった。誰もが初勝利を予感して舞い上がっていた。
 「あいつら上手いな…」ただ1人、ユアサだけが冷静な表情で、アップを始めた相手チームの控え組みの動きを眺めてそう言った。
 ピッチでは前半、主審と副審をやってくれていた3人が軽いアップを始めていた。ユニホームではなく、緑色したビブスを着て。3人ともかなり上手そうな感じ。
 「上手そうだなあの3人…」ユアサの隣に行って一緒に眺めてみる。
 「あのアフロっぽい人がヤバイですね」さっきの主審の人だ。パス回しをしているだけなんだけど、明らかにレベルの高さが見て取れた。
 「後半出てくるのかな…」
 「出てきそうですね」
 もう勝利を確信したようなムードの中、嫌な予感が胸を走った。もしかしたら本当の戦いはこれからなのかもしれない。

 後半、予想通りラプターズはメンバーを入れ替えてきた。14番がセンターバックに入って、ボランチにはビブスを着たアフロ、他にビブスを着た奴らがトップと右サイドバックにそれぞれ代わって入ってきた。
 「このまま勝つぞ!」もう1度円陣を組んで、アッチが気合を入れ直した。後半開始。
 開始してすぐに、質の高い動きと技術でアフロが完全に中盤を支配し始めた。本職のセンターバックに入った14番が上手くラインをコントロールして、アズレプのFW陣をガンガンオフサイドに引っ掛ける。たのみのタクちゃんには右サイドバックに入った奴が対応して自由にプレーさせてくれない。完全に流れを持ってかれた。
 そして後半8分、右サイドをオーバーラップしてきたビブスの7番がマッチョをキレイに抜き去ってフリーになった。真ん中では同じくビブスの10番が待ち構えている。
 「10番!」声をかけたアタルとユアサが挟み込むように10番をマーク。だが、7番はかまわず10番に正確なクロスを送った。
 ヘディング、そう思ってカメが身構えたが、10番はそのボールをユアサとアタルに挟まれながら胸でトラップ、落ち際を太ももで右にコントロールしてアタルをかわすと、そのままボレーでシュートを放った。タイミングを外されたカメは全く反応できずにゴールを許してしまった。いきなりの失点。
 なおも後半12分、アフロのスルーパスから抜け出した10番がユアサを振り切ってカメと1対1に、良いタイミングで飛び出したカメだったが、シュートフェイントから股間を抜かれて同点ゴールを奪われた。
 ハーフタイムの空気から一転、アズレプに重たい空気が流れた。
 「まだです!取り返しましょう!」ケイタの言葉が虚しく響く。連続失点のショックと疲労から、みんなの動きは明らかに悪くなっていた。とくにワッタは久しぶりの試合なだけに、肩で息をしいて前半のようにボールをキープできない。
 そして後半15分、簡単にDFラインをアフロに突破されて、アズレプは逆転された。悔しがってグランドに拳を叩きつけるカメ…
 全員が下を向いて疲労に肩を震わせていた。絶望感が漂うグランド。俺も腰に手をやって俯いていた、逆転されたショックはデカい。
 「顔上げろよ!まだ終わってないじゃん!絶対取り返せるって!」馬鹿デカイ声でアッチが叫んで、ボールを走ってセンターサークルまで待ってきた。「らしくないじゃん、諦めるなよ!」そう言って怒りにも似た表情で俺にボールを渡す。
 「誰が諦めたって?」
 「じゃあ、下向いてないで取り返してこいよ」
 実際、俺は諦めかけていたのかもしれない。もうダメかもってどっかで思ってた。そんな自分がなんだか恥ずかしかった。
 「まだ終わってないからな!取り返すぞおまえらっ!!」恥ずかしいからデカイ声でみんなに向かって叫んだ。俺は諦めてないって態度で示す。
 「それでよし」アッチはニコッと笑ってそう言った。
 ウサギたちはそれぞれに顔を上げて前を向いた。まだ諦めるには早すぎる。


 
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第25話 『ボールの行方』

 ここはサン・シーロでもカンプ・ノウでも国立でもない。地鳴りのような声援を送るサポーターも、怒号のようなブーイングを送る観客もいない。小さな街の球技場、公式戦ですらない、ただの練習試合。
 だけど、おれ達はそれこそ死にものぐるいで走り回った。体はもう思うように動いてはくれないぐらいに疲弊しきっていたけど、それでも座り込むわけにはいかないから。なんの価値があるのかなんて分からないけど、ただ勝ちたかった。
 「もうパス来ても追いかけれないからディフェンスにまわる…タケがFWに上がってくれ」そう言ってよっPは中盤に下がった。
 俺は相手のDFラインの手前で足を止め、そこで勝負の時を待つ。全速力であと何回走れるだろうか、その何回かを攻撃だけにかけてみる。絶対にチャンスはあるはずだ。
 ずっと攻められ続けていたけど、DFラインとGKのカメがギリギリのトコロで失点を防いでいる。とくにカメは浅くなったDFラインの裏を、何度もタイミングの良い飛び出しでカバーしてた。
 試合終盤、右サイドを相手に突破されそうになったけど、1度抜かれながらもケンが必死になってボールを取り返した。そのボールはよっPへ、とっさの動き出しでフリーになったケイタがよっPからのパスを受けた。
 ケイタが敵を1人かわして、ルックアップした瞬間に目が合った。絶対くる、そう感じて動き出すと、ケイタは迷うことなく俺にパスを送った。
 視界の端で相手14番が距離を積めてきてるのが分かった。まともな1対1だとぬけるかどうか微妙なところ。ケイタからの浮き球のパスはちょっと短くて、俺の1歩後ろでワンバウンド、俺はそのボールを右足のアウトサイドでフワッと浮かせた。一瞬、俺の体と重なってボールを見失った14番の反応が遅れる、ボールは14番の頭上を抜けた。俺は勢いよく反転してその横を駆け抜けると、目の前には広大なスペース。後はキーパーだけ。
 このチャンスに全て込める気持ちで全力で走った。相手GKが悪くないタイミングで飛び出してきたけど、決めれるって予感、シュートコースがハッキリと見えた。だけどシュートを撃とうと思った瞬間、右足の踵に激痛が…後ろから追いかけてきたDFのスパイクで踏まれた感じになり、俺は態勢を崩した。
 GKがもう目の前に、後ろからはDF。なんとかして撃たないと、これが最後のチャンスかもしれない。ホンの少しだけ、GKの足がボールに触るよりホンの少しだけ早く、俺のつま先がボールに触れた。交錯して目の前が一瞬真っ暗になったけど、すぐに体を起こしてボールの行方を追う。
 コロコロと力なく転がったボールは、左ポストをかすめ、ゴール裏の暗闇に逸れていった…
 それが本当に最後のチャンスだった。



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プロフィール

K・J・TAKE

Author:K・J・TAKE
実話から生まれた物語。
色んな奴らが集まって誕生したサッカーチーム『アズレプ』の愛と感動?の日々。

初小説ですけど頑張って書いていこうと思います!
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